「二人の男とそれを取り巻く環境と女」

第一場/第二場/第三場/第四場/第五場/第六場/第七場/第八場

第1場

−舞台は暗転。

男1(上手)にスポットライトが当たる。白のYシャツに黒のパンツ。よれた感じ。何かを言いたがっている。

男1「僕は、誰なんでしょう?昨日、お酒を飲んだ所までは覚えているんです。でも、それから…目覚めてから何も覚えていません。僕が誰なのかも、ココが何処なのかも。」

−男2(下手)にスポットライトが当たる。男1のスポットライトは消える。同じく白のYシャツに黒のパンツ。ネクタイを締めている。何かを言いたがっている。

男2「明日のプレゼンの資料が出来ません。もう、もう時間が無い。もう朝だ!どうにかしてこのプレゼンを成功させなければいけない!…事はわかっているんだけれど、不思議な事に僕には何も出てこない。正直に言うと、僕は何の為にこのプレゼンをするのかが判らないんです。ついでに言うと何故ここにいるのかも。」

−男1にスポットライトが当たる、男2のスポットライトは消える。

男1「そうだ、財布だ。財布を見ると何かがわかるかも!」

−胸ポケットに手を当て、ズボンの前に手を当て、お尻のポケットに手を当てて何かを見つける。

男1「あった、財布だ。長財布。全然記憶に無いけれど、何かわかるかも!」

−慌てて財布を開けてカードを探す。

男1「ゴールドカードばっかりだ。1万円札も沢山入っている。えーと、カードに名前があるはずだ!…SUDOU MASAHIKO」

−男1、カードの名前をゆっくりと読む。

男1「スドウ マサヒコ。どのカードも同じ名前だ。僕は多分…スドウ マサヒコなんだろう。他には!?」

−男1、まだカードの中身を探る。そして残念がる。

男1「免許証は…入っていなかった。他に住所を表す物や生年月日が判る物は無いのか…しかし、カード番号がある、これで、カード会社に電話をかければなんとかなるかも知れない!、いや、その前に交番か?それにしてもここは何処なんだ?」

−男2にスポットライトが当たる、男1のスポットライトが消える。男2に向かって下手から社員2名が駆け寄る。

社員1(声を荒げて)「須藤課長、早くしないと時間がありません!プレゼンは日本橋で10時からです!移動と資料の印刷から逆算するともう時間が無いんです!僕達も力の限りを尽くしましたが、最後の”押し”が出来ないんです!課長!」

男2「あ、あぁ、プレゼン?…だったな。そうだもう一度資料を最初から見直すんだ。その上で一番言いたい事をもう一度見つけるんだ!」

社員2(声を荒げて)「課長!、このままでは利益率が出ません。営業としても、このままでは部長の決裁を貰えません!何かを削らないと!部長も徹夜で待っています!」

男2「あ、あぁ、利益率は今の所、どのくらいだ?」

社員2「利益率3%です。5%は出さないとこのプレゼンで勝ってもリスクが高すぎます!」

男2「そ、そうか。」

社員1(声を荒げて)「課長!なんか変ですよ?寝ていないのは我々も一緒です。なんとかしないと!それにしても大丈夫ですか?顔色が…」

−男2、自分の顔を両手で触る。凄い汗をかいているのを感じる。

−男2の心の声。

男2「なんなんだ?この状況は?確かに僕は”須藤課長”と呼ばれていた。俺は”須藤”なのか?いや、違う。僕の名前は”遠藤”、”遠藤 孝則”だ。なんで俺は”須藤課長”と呼ばれているんだ?一応、相槌は打ったが、この状況は何だ?今は…4時?なんで僕はここにいる?」

−一瞬暗転の後、男1と男2同時にスポットライトが当たる。

男1・男2「僕は誰で、ココは何処で、何をやっているんですか!?」

−暗転


第2場

−男1にスポットライトがあたる

男1「ま、まずだ。冷静になろう。体に怪我はないか?」

−体中を触り確認する。その後、体を色々と動かす。

男1「体は大丈夫みたいだ。財布もあるし、物取りに会った訳ではないな。時計は…ある。何時?4時朝?夕方?」

−男1まわりを見渡す。

男1「ほとんど人が居ない。どうにも朝の方の4時みたいだ。それにしても、この状況は何だ?どうも、朝って事は…カード会社はサポート外か。交番を探すか…」

−男1がうろうろした所で男2にスポットライト、男1のスポットライト消える

男2「とりあえず、俺は課長と呼ばれているらしい、どうも見覚えのあるPC。プレゼンの資料は見れる。どうにも新システム導入におけるプレゼンの資料らしい。内容を早めに見る。判る。そうだ、俺は遠藤 孝則でIT関係の仕事についていたんだった。勿論、下っ端だが。」

−男2、パソコンを操作する動きをする。

男2「なんだ、良く見ればこんな資料全然弱いじゃないか。こんなんじゃダメだな。下っ端の俺でも判る。課長って言われているんだから、これが夢だとしてもいいから、いっちょ話してみるか。」

−男2、男性社員1に向かって話す。

男2「(ちょっと偉そうに)うん、資料を見直してみた。これでは最大の売りである、データの安全性が強く書かれていない。RAID5(レイド5)の安全性を書いて、…あとは静岡にあるデータセンタによるデータバックアップ、及び、UPS(無停電電源装置)を押して、データの安全性を限りなくアピールするんだ!システムダウン時に一番必要なのは、データの安全性だ!データが無くなったら会社の機能はストップする。それに対する利点をアピールするんだ!」

男性社員1「わかりました、『データの安全性』について資料を修正します、今…4時30。今からなら6時には間に合います、それから資料を印刷すれば…ぎりぎり間に合います!」

−男2、満足げに、次に営業に向かって話す。

男2「利益率を上げるためには、原価を下げるんだ、コスモシステム社に外注を出せ、次のシステムの受注時に前面に優先すると言って単価を下げるんだ。SE140万を110万に、PG90万を80万にしろ、俺が後で話をつける、ちょっと計算してみろ!」

−男性社員2、慌しくパソコンを叩く素振り

男性社員2「須藤課長の了解を得た…これで計算すると利益率は6%です!部長決裁でます!」

−男性社員2が内線で部長に電話。ガッツポーズ。男2、我が物顔。

男2「こうやって、上から物を言うのも楽しいもんだな。どうせ夢なんだろう。俺は遠藤であって、須藤ではない。勿論、課長でもないからな。ばっくれればいいだろう。」

−男2のスポットライトが消え男1にスポットライトがあたる。交番で警察官と話している。

警官1「で、君は”すどうまさひこ”さんなんだね。でも、それが判らない…と。」

−警官1、面倒なしぐさ(朝からって顔)で、調書を書いている。

男1「だから、気が付いたら、僕はここにいて、名前がわからなくて、財布を見たら、”スドウ マサヒコ”って書いてあったんです。」

警官1「で、どういう字を書くの?調書とるのに、名前を書かないといけないから。」

男1「それがわからないんです。カードにはローマ字で”SUDOU MASAHIKO”としか書いてませんだから、判らないんです。」

警官1「記憶喪失…なの?酔っ払ってるだけじゃない?水飲む?ちょっと寝れば、なにか思い出すかもよ。とりあえず寝なよ。奥に仮眠室あるから、さぁ、水飲んで、横になって。」

−男1、警官1に面倒くさそうに奥(上手)に連れられていく

−男2にスポットライト

男2「それにしても、この状況はなんだ?俺は課長で、須藤?まぁ、いいか夢だろう。」

−男2、自分のほっぺをつねる。痛がる。

男2「それにしても、どうしまったんだ?俺の頭が狂ったのか?それとも、記憶喪失…?俺は、遠藤 孝則のハズだ。それすらも嘘なのか?」

−男2、眠そうにする。何か一つを成し遂げた顔。

男性社員1「あとは、僕達でなんとかします。課長はプレゼンまで仮眠室で眠っていてください!」

−男2、男性社員に連れられて、(下手に)引き下がる。
−男1、Yシャツを直し、ネクタイを締める。
−男2、ネクタイを外し、Yシャツをよれよれにする。
(男1・2の服装置き換わるの意味。)

−男1、下手から登場。スポットライトあたる。

男1「あぁ、寝ていたのか。資料を、資料を作らなくては」

−男性社員1が書類を持って下手から登場。

男性社員1「須藤課長、疲れは取れましたか?」

男1「あ、あぁ。寝てしまったのか。そんな事より資料はどうした!?」

男性社員1「もう、完成して、印刷・コピーを開始しています。プレゼンには間に合いますよ。まだ寝ていてもいいですよ。」

男1「え?もう出来ている?資料、資料を見せてくれ!」

男性社員1「これです。」

−男性社員1、不思議そうに、男1に資料(紙)を渡す。

男1「え、これ、これは…ちゃんと出来ている。アピールポイントも明確だ。そう、データの安全性だったんだ。所で、誰がこれを?」

男性社員1「それは、須藤課長ですよ?忘れたんですか?」

−男1、首を傾げながらも、男性社員1の怪訝な顔に慌てて、とぼける。

男1「よ、よし、今は…7時か。もう少し寝かせてくれ。あと、髭剃りをコンビニで買ってきてくれ。無精髭でプレゼンは出来ないからな。」

男性社員1「判りました!8時に起こしますので、ゆっくりしてください。あ、あと一回は資料の確認を願いますね。」

−男1、男性社員1のライトが消える。男2と警官1が上手から登場

警官1「少しは何か思い出したか?ほら、水を飲め。」

男2「(きょろきょろしながら水を飲む)え?えぇ、多分、昨日飲みすぎて…頭が、すいません。」

警官1「で、スドウさん、何か思い出しましたか?」

男2「え?何をです?僕は遠藤ですが。遠藤 孝則。住所は…神奈川県横浜市金沢区…」

警官1「え、遠藤さん?住所は…(地図を見ながら)ここですか。そんな事より、あなたはスドウさんじゃないんですか?ほら、さっき財布を見せてもらった時。」

−男2、ポケットの財布をみて驚く。そして勝手に中を開ける。

男2「俺のじゃない!!SUDOU MASAHIKO?うわ、すげーゴールドカード」

警官1「え、君のじゃないの?さっきまでは何にもわからないって言ってたけど。」

男2「多分、酔ってたんだと思います。昨日は明け方まで新宿で飲んでいて…で、気が付いたら此処に。でも、自分の名前くらいは覚えてます。財布は…どうしてこうなってるんだろう?僕の財布は…あれ、無い。って言うかジャケットが無い!ジャケット、どこかにありませんか?多分、その中に僕の財布が…」

警官1「いや、君が交番に来た時には、ジャケットは羽織ってなかったよ。どこかに忘れてきたんじゃないの?そんな事より、その財布、自分のじゃないの?まさか、窃盗…?そうすると話が変わってくるよ。」

男2「いや、物取りとかの記憶は無いです。ただ、ポケットに入っていたってのが…結果で。あの、その…」

−暗転後、男1と男性社員1にライト

男性社員1「須藤課長、時間、8時です。髭剃りと洗顔フォームを買ってきたので、その…顔を洗ってください。」

男1「うん、判った。」

−男1、髭を剃って、顔を洗う。

男1「よし、準備は出来た。よし、行くぞ!」

−男1、椅子にかかっているジャケットを羽織る。

男1「あれ、なんだ?このジャケット?俺のジャケットか?」

−男1、ジャケットをあれこれ触り、胸ポケットから財布を取り出す。

男1「なんだ?誰の財布だ?他の社員の…?いや、まだ他の社員は出勤してきていないはずだしな。財布のカードを見れば判るか…、ENDOU TAKANORI…?誰だ?そんな社員はいないぞ。」

男1「おい山下、お前、俺のジャケット知らないか?」

男性社員1(山下)「(観客側を向いてガッツ)やっと俺に名前がついたぜ!(向き直って)え、それは須藤課長のじゃないのですか?サイズも合ってるし、色も合ってますよ。それに、昨日もこの格好だった気がします。」

−男1、あきらか…に違和感を感じながら、羽織ったジャケットを触る。

男1「なんか…違う気がするんだけどなぁ〜山下、この部署に遠藤って奴いたっけ?」

男性社員1(山下)「うちの部署では聞いたことないですねぇ〜。あ、俺の同期に遠藤って奴居ますけど、知らないですよねぇ〜(時計を見てハッとする)そんな事より須藤課長!日本橋だともうすぐ出ないと間に合いません!営業にも伝えてあります。新橋の旧SL広場の所で待ち合わせにしてあります。さぁ、行きましょう!」

男1「よし、準備はいいな。資料のチェックもオッケーか?さぁ、行こう!」

−男1と男性社員のスポットライト消える。男2と警官1にスポットライトが当たる

男2「あぁ、ジャケット!あそこに財布が入ってるんだ!ねえ!全然思い出せないですよ。昨日は横浜で同期と飲んでいて、酔っ払って、おねーちゃんの店に行って、そして…ここ…に…?」

警官1「ここは戸部だよ。君、どうやってここまで来たの?それに知らない人の財布なんて持ってるし。」

男2「え?トベ?あれですか?横浜の一駅前の?どーやって、ここまで来たんだろう?こ、この人の財布は本当に知らないんです。…もしかしたら、おねーちゃんの店に行った時に出会った人の財布かも…?確かに素振りのいい人が居たんです。で、お世話になって。でも、なんで僕のポケットに?」

男2「今、何時ですか?」

警官1「8時30だよ。」

男2「あぁ、理恵子に電話すれば分かる。この時間なら理恵子がいる筈だ。電話借りてもいいですか?」

警官1「あぁ、君を証明する為だったら、電話なんて何ぼでも貸すよ。君…携帯電話持ってるんじゃないの?電話番号分かるの?」

男2「…こんな事言ったら恥ずかしいんですけど、理恵子とは合コンの時に知り合ったんですが、電話番号は語呂合わせで覚えているんです。たしか、『さ、シーナナオクロイ』だから、080-477-0691です。」

警官1「なんちゅー語呂じゃ!そんなんで覚えているのか?」

男2「だから、電話させてください。」

−男2、電話をかける。

理恵子(声)「何?こんなに早く。私、さっき帰ってきたばっかりだよ。眠らせてよ。」

男2「いいか、まず聞いてくれ。俺は今交番にいるんだ。」

理恵子(声)「え?何か犯罪でも?喧嘩でもしたの?私、何にも知らないからね。」

男2「理恵子、俺の名前は「遠藤 正則」だよな。だよな。」

理恵子(声)「何を今更、改名でもしろって占い師にでも言われたの?決まってるじゃない、その声、いっつも金を借りに来て返さない遠藤 正則!」

男2「だな、ろくでなしな遠藤 正則だ。頼むから、警察官にこの事を証明してくれ。」

−警官1に電話を代わる。

警官1「あの、まずあなたと遠藤さん?の関係を教えてください。」

理恵子(声)「付き合っているって言えば付き合っている…彼女って事にしておいて下さい。」

警官1「しておいて下さい?(怪訝そうに男2をみる)で、声の主は遠藤さんで間違えないと。」

理恵子(声)「この番号を知っていて、この声はクソ遠藤しかありえません。」

警官1「ありがとうございます。ちなみに昨日は何をしてました?」

理恵子(声)「じ、尋問ですか?まぁ、調べれば分かりますけど、私はキャバクラ嬢をしてまして、昨日は3時まで仕事でした。その後、お客とアフターしたから…帰ってきたのは5時です。で、眠ったら電話がかかったと。これで十分ですか?店の人やお客さんに聞けばアリバイは成立しますよ。」

警官1「まぁ、それは調べれば分かるとして、この電話の人は遠藤さんですね?」

理恵子(声)「はい、間違いありません。ロクデナシの遠藤です。もういい?切りますから」

−警官1、電話を切られる。

警官1「君、随分な言われようだね。うちの家内よりきついな」

男2「あのくらいじゃないとだめっすよ(アドリブで一人のろける)」

−警官1、男2に呆れながら、それにしても…と警戒する。

警官1「あなた、遠藤さんなんだね。少なくとも須藤さんでは無い。じゃあ、財布は誰の?ジャケットは?」

男2「でしょー、僕は遠藤なんですよ。判って貰えましたか?でも、本当に財布は知らないんです。ジャケットに携帯と財布が入っているはずなので、それを探せば?」

警官1「と、言ってもあなたの方からこの交番に来たんですよ。僕が職質したわけじゃないんで。」

男2「あぁ、そうですね。なんとなく起きた場所を覚えているので、そこまで行っていいですか?」

警官1「待て!逃げられたら困るので私も一緒に行く。朝番の警官が来るしな」

−男2、警官1、上手にはける。

−男1にスポットライト。プレゼン中。脇に男性社員1。

男1「で、あるから、御社の業務の中で一番大事なのはデータの安全性なのです。機密情報漏洩等も考えますと、完全に別のネットワークを組んで、RAID5の構成でデータの安全性を保障します。以上で、弊社の説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。」

男性社員1(山下)「須藤課長、プレゼン、上手く行きましたね。これでN社やF社にも互角に戦える。営業も喜んでいました。」

男1「そうか。さすがに徹夜が続いたからな。今日はこれで直帰させてくれ。」

男性社員1(山下)「わかりました。部長には私から言っておきます。だって、課長、あれだけやったんだから当然ですよ。」

−男1、男性社員1と握手をして、男性社員1下手にはける。

男1「そうだな、ちょっと疲れたが、今日は飲みたい気分だ。晶子に電話をかけよう。」

−男1、ジャケットを触るが、携帯が見つからない。

男1「まぁ、携帯なんて見なくても、晶子の携帯電話番号なんて空でも言えるさ。ただ、向こうがこの電話番号で出てくれればだが。」

−男1、電話ボックスを発見して、かけよる。

−男2上手から出てきて、スポットライト。

男2「なんだかなぁ〜、結局、ジャケットは見つからなかったしよー、警官には何だかんだ言われるし散々だよ。今日は、もう会社に行く気分でもないや、理恵子に慰めてもらおう。」

−男2、電話ボックスを発見して、かけよる。

−男1・2同時に電話をかける。

−暗転


第3場

−上手から男2登場。スポットライト、電話をかける

男2「今日は、なんかゴメンな?実はさ、俺なんか昨日酔っ払って携帯とか財布が入ったジャケット無くしたんだよ。で、自分を証明できるものなくて。で、今日は休み?」

理恵子(声)「あん、今日は休みだけどさ。あんた?お金あるの?私だすのイヤだからね!」

男2「それがさ、ジャケットは無くしたんだけど、ポケットに知らない人の…スドウさんだかの財布が入っててさ、すげー札束があんの。俺の財布より全然金あるよ。警官にも没収されなかったから、カードは使えないけどさ、この現金があれば、俺が奢ってやるよ。」

理恵子(声)「あんた、そんなので見つかって私共犯になるのイヤだからね。」

男2「大丈夫、大丈夫、お前の名前は出さないからさ。それに現金は確認されなかったんだよ。バカだなあの警官。じゃあ、19時にいつもの居酒屋ね。」

理恵子(声)「なんで、お金あるのにいつもの安い居酒屋なのさ!たまには焼肉にでも連れて行きなさいよ!」

男2「よ、よし判った。じゃあ、や、焼肉だ。食わしてやるよ。財布にある分だけな。じゃあ、19時にいつもの改札前で。」

−男2のスポットライト消える。下手から男1登場。スポットライト。電話をかける

男1「晶子?」

晶子(声)「誰?この番号…公衆電話って出てるけど。」

男1「俺だよ。須藤だよ。携帯を無くしてさ。ついでに財布も無い。まぁ、大丈夫だ。一応全部カード類は止めてある。で、今日大丈夫?、今日さ、プレゼンがあってね。一応、連続徹夜も終ってこれから帰るんだ。せっかくだから、夜とか飲みに行かないか?」

晶子(声)「…せっかくだけど、ゴメン、今日外せない用事があるの。また、今度ね。」

男1「がっかりした感じで)仕方ない。まぁ、徹夜が続いていたから、今日はゆっくり寝るか。どうせプレゼンの結果は来週だ。明日は午前半休でも貰う事にして、部屋で飲んで、ゆっくりと寝よう。」

男1「それにしても、晶子はなかなか会ってくれないなぁ〜、晶子なんて気軽に呼んでいるけど、俺はまだ”晶子さん”って呼ばなければいけないのかなぁ、ちょっと走り過ぎたか?でも、晶子は理想の女性なんだ。今の部署に配属になって見つけたマドンナ。俺はそのマドンナに見せ付けるように出世コースをただがむしゃらに走ったんだ。」

−男1、悔しくて髪を掻き乱す。

男1「(イライラして落ち着かない)なんか、寝る気分でもなくなってしまった。疲れも無いし。そんな時に、俺は、行く場所が無い。がむしゃらに仕事に走ってきたので、会社での飲み友達が少なくなってしまった。最近はもっぱらお客さんや営業と飲むだけだ。俺は…孤独なのか?それに今日、記憶が変だった?俺はおかしくなってしまったのか?」

男1「まぁ、晶子には会えなかったが、今日は久々に酔いたい、騒ぎたい。キャバクラでも行くか。」

−男1スポットライト消える、男2にスポットライト

−男2、時計を見ながら

男2「なんだよー、理恵子の奴、全然来ないじゃんかよー。せっかく金あるのに。電話しても繋がらないしよぉー。理恵子もいい加減だからなぁ〜、予定すっぽかすなんて毎度の事だけどさぁ〜、まぁ、俺も人の事言えた義理じゃないが。どーすっかなぁー、あと10分待って来なかったら、昨日行ったキャバクラ行くか。」

−場転。舞台中央、向かい合う椅子が2個ずつ置かれている。喧騒のSE、お互いに背を向けてイスに座っている

−男1・男2にスポットライト当たる、喧騒のSE、お互いに背を向けてイスに座っている

(声)「お待たせしましたぁ〜、理恵子ちゃんです!」

−舞台上手より女性1登場、男1に向かいあう。男1、物凄く驚く、女性1、男1の向かいのイスに座る

男1「り、理恵子ちゃん?それ、本名?本名、晶子って言わない?」

女性1「あきこー?理恵子知らないよ。はい、名刺。」

−女性1、男1に名刺を渡す

女性1「焼酎にしますかー?ウィスキーにしますかー?」

−男1、驚きを隠せずに

男1「ウ、ウイスキーを水割りで。」

−女性1、お酒を造る。

女性1「今日は、お一人ですかぁ〜?お名前は?」

男1「あ、晶子ちゃ…いや、理恵子ちゃん、名前は須藤って言います。」

女性1「なんか、落ち着いてますねぇ〜、でも、なんか若いですねぇー、おいくつですかぁ〜、なんて聞いたら失礼か。」

−女性1、頭に手を当てる

男1「いくつに見える?…って質問は毎日何回も聞いているんだろ?俺は、あれだ35歳だ。」

女性1「えー、見えないー、20代って言われませんかぁ〜。」

男1「そんな見え透いた嘘はやめろよなー(と、言いながら嬉しそうなそぶり)それよりさぁ、理恵子ちゃんは晶子っていうオネーチャンか妹居ない?」

女性1「また、そればっかり。私がそのアキコって人に似ているんですか?」

男1「似ているもなにも、そのものだ。」

女性1「え?須藤さんが好きな人に私、似ているの?嬉しーなー(はーと)」

−男1、なにがなんだかわからない状態に。

男1「どーなってるんだ?目の前にいるのは確かに晶子。今、ここはキャバクラ。で、この子の名前は理恵子。で、今、俺の目の前で水割りを作っている。わからない。わからないぞー」

−女性2下手より登場、男2の向かいのイスに座る

女性2「どーもー、はじめましてー晶子でーす。」

男2「はいはいはいはいー、どーも、どーもー」

女性2「この店は始めてですかー?私、入店してまだ2日だから。」

男2「俺は、この店は良く来るよー。アキコちゃん?かわいいねー。まだ2日目なんだ。じゃあ、焼酎の水割りを作ってねー」

女性2「あ、は、はい。ごめんねー。まだ慣れてなくてぇー。」

−女性2、おぼつかない感じで水割りを作る

女性2「はい、どーぞ。お客さん、お名前は?」

男2「俺、遠藤。みんなから”エンチャン”って呼ばれてるから、アキコちゃんもそう呼んでよ。」

女性2「あ、は、はい。”エンチャン”さんですね。覚えましたー。」

男2「アキコちゃんカワイイねー。おじさんタイプだよー。」

女性2「おじさん?え、おいくつですか?」

男2「(自慢げに)いくつに見える〜?」

女性2「えーと、20…27〜30歳!」

男2「(ちょっと残念そうに)うん、ギリアウト31歳。30過ぎたらみんなおじさんだもーん。」

女性2「そんなことないですよぉ〜、全然魅力的ですよぉ〜、エンチャンさんは。」

男2「おれ、まだイケテルかなぁ〜。ねぇ、電話番号教えてよ、ダメならメアドでも。」

−女性2、名刺に書き込みをする。

女性2「エンチャンさん、始めまして、晶子でーす。」

男2「おぉ、電話番号ツキじゃん?かけてもいい?」

女性2「今は仕事中だからダメですぅ〜。また今度、電話下さい。あ、よかったらエンチャンさんの電話番号とメアド教えてもらえますかぁ〜?」

男2「いいよ、いいよ、全然いい。じゃあ、名刺貸して?電話番号とメアド書くから。今さ、ちょっと携帯無くしてるから…多分、どっかから出てくると思うんだけど。」

女性2「遠藤 正則さんって言うんですねぇ〜。今度メール送りますねぇ〜」

男2「おっけー。待ってるよー。」

−男1、驚きを隠せない表情、男2、嬉しさの絶頂の表情

−男1にスポットライト

男1「そろそろ会計するかね。」
女性1「そうですか。お仕事頑張ってくださいね!」

−男2にスポットライト

男2「酔っちゃったよー。もう帰るー」
女性2「あら、まだいいじゃない?」
男2「俺、昨日も酔って記憶無いんだよー。今日は帰らないとッと。(よろける)」
女性2「じゃあ、エンチャン!またきてねーー!」

−男1、男2同時に立ち上がる。お互い、振り返って

男2「あ!それ、俺の、ジャケット!」

−暗転


第4場


−女性、はける
−向かい合わせのイスから2脚をはけて、残りの2脚を横に並べる。
−男1、男2隣同士に座る

男1「(ジャケットを脱ぎ、膝の上に乗せながら)…どういう事なんだ?、このジャケットを知ってるのか?」
男2「知ってますよ。財布と携帯入ってたでしょ…で、エンドウって書いてませんでした?」
男1「(驚いて)やっぱり、君のなのか、エンドウ タカノリ君?」
男2「正解!ピンポーン!僕が遠藤孝則です。携帯の番号も言えますよ。携帯出して、メニューボタン押して”0”を押してくらしゃい。」
男1「(ジャケットから携帯を取り出しボタンを押す)出た。」
男2「では、正解発表です!090-1234-5678!」

(ドロロロロロロ)ドラムロール
(ジャン!)

男1「正解!じゃあ、これは君のだ。ってー事は、もしかすると君、僕の財布持ってないかい?」
男2「(焦りながら、イスから下りて3歩下がって土下座)すいましぇん!でも、カードは使ってないですよ!現金だけです!現金!まだ残ってます。」
男1「いいよ、座りなよ。と、いう事は、その財布の持ち主、カードに書いてあるだろう?SUDOU MASAHIKOと!」
男2「(また三歩下がって土下座)本当にごめんなさい。スドウさん!本当に、ほんとーーーに、カードは使ってません。お金なら返します!お金があれば(思いついて立ち上がり)、そのジャケットに財布入ってませんでした?」
男1「あぁ、入っていた。君のだね。いいから座りなさい」
男2「その中の金額では…足りないかもしれないけれど、給料出たら返しますから!」
男1「ジャケットは返すから、その財布を返してくれ。」
男2「(そそくさと席に戻り財布を出し)はい!」
男1「じゃあ、はい(ジャケットを男2に渡す)。」
男2「ありがとうございます!(財布から札を出そうとする)」
男1「(それを制止して)いいから、いいから。カードは使ってなかったんだろう?」
男2「(頭をなんども振って)はい!使ってません!」
男1「じゃあ、いいよ。それにしても、なんでジャケットが…」
男2「不思議なんです。朝、起きたら、なんか会社の中に居て、須藤課長って呼ばれてるんスよ。」

−男1、驚く(自分にも似た経験がありそうな感じで)

男2「で、なんかプレゼンの資料作ってるんですけど、あ、俺も一応システムエンジニアしてるから一通り見たら判ったんですよ。で、得意分野だったので、夢かどうか判らなくて、その…部下みたいな人に指示だして、見積もりして、で、気付いたんですけど、実はここ俺の親会社の仕事だったんですよ。で、利益が出ないって言うから、もう夢みているか、気がおかしくなったのかと思って、『どーでもいいやぁ』って思って、自分の会社に下請けするように言ったんですよ。まぁ、俺の懐が痛むわけでもないし、俺の会社には嬉しいし。で、疲れたので、もう一度寝たんです。」
男1「君は…コスモシステムの人かね。」
男2「そうっス。」
男1「(頭を抱えて)俺、俺はなんか、朝目覚めたら、なんだか判らなくて、記憶も無くて、財布みてカード見て、交番に行ったんだ。で、調書とるまえに仮眠をしたんだ。」
男2「(驚き!)えっ!俺、仮眠から目覚めたら交番だったんですよ!」
男1「やっぱりそうか!俺は仮眠から覚めたら見慣れたオフィスだった!」

−二人、顔を見合わせ−

男1・男2「信じられない!こ、こんな事があるなんて!」

男1「落ち着け、落ち着け、俺はやっぱり須藤で合ってるんだ。朝はどうにかしていた。俺は須藤 須藤 正彦。MRVシステムズの課長だ。で、昨日、昨日はプレゼンの資料を作っていて、どうしても、行き詰って、で、ちょっとウトッとしたんだ。」
男2「そうです、そうです、僕は昨日、明け方まで飲んでいて、で、記憶が無くなって。」
男1「それは何時頃だ?」
男2「ラストまで居たから…多分4時ちょい前かと。」
男1「俺も行き詰って、時計を見たのが4時ちょい前。」

−二人、顔を見合わせ驚く−

男1「俺が交番で仮眠をしたのは6時くらいだった。」
男2「僕が仮眠したのは6時頃!」

−二人、顔を見合わせ−

男1・男2「信じられない!こ、こんな事があるなんて!」

男1「俺の好きな味噌汁の具は油揚げ!」
男2「俺も好きな味噌汁の具は油揚げッス!」

−二人、顔を見合わせ−

男1・男2「信じられない!こ、こんな事があるなんて!…いやいや、それはよくある、よくある。」

男1「どうも、俺達は同時に眠った時に中身が入れ替わったって訳か。」
男2「そう考えると話が合いますが…」
男1「と、兎に角、明日会社に行って、調子を合わせなければ。」
男2「あ、やべ!俺、今日会社に電話してなかった。無断欠勤だぁー!」
男1「とにかく、明日また、夜会おう。一応また入れ替わったら困るから、僕は3時に寝る、君は4時に寝てくれ。それで、明日また、状況が変だったら電話してくれ、そのままなら、明日の17時に横浜駅で会おう。」
男2「わ、わかりました!明日っすね!」
男1「とにかく、今日は別れよう。」

−暗転−

−イスをはける

(ピリリリリリリ)目覚まし時計の音

−男1はける。男2にスポットライト。

男2「(自分の体を触りながら)お、お、おお、俺の体だ。成功だ!」
男2「昨日は訳わかんなかったけど、結局タダ酒だったなぁ〜、ラッキー。でも、夜にあの須藤って人と会わないといけないのか。ま、いいか、今日は年休にして、昨日の”晶子”ちゃんに電話しよーっと。」

(プルルルルル)呼び出し音
(ガチャ)

男2「もしもしー、晶子ちゃーん、エンチャンだよーん!」
理恵子(声)「なによ!バカ遠藤!結局キャバクラ行ってたのね!どうせ、パチンコかキャバクラだと思ってたわ。」
男2「(驚いて、一気に目が覚め)り、理恵子!な、なんで、こ、これ、晶子ちゃんの携帯番号…」
理恵子(声)「なんでって、晶子…は源氏名だけど、その晶子と私は友達なの!昨日、愚痴を聞いていて、あんたの話になったのよ!」
男2「(せわしなく言い訳するように)す、すまん!で、でも、だって、昨日焼肉来なかったじゃないか!」
理恵子(声)「(ちょっと申し訳なさそうに、でも強気に)だって、体調…悪かったんだもん。だから、携帯にも電話したよ!でも、出なかったじゃない!」
男2「(あ、あぁ、思い出したように)ジャケットは須藤さんだった…携帯無かったんだ。」
理恵子(声)「何、意味判らないわよ!あんたなんてね、ロクデナシのその上…ナナデナシよ!」
男2「おいおい、五目御飯だって、本当に五目入っているか判らないのに酷いな。」
理恵子(声)「とにかくねぇ〜、あんたは、ろくでもないし、ななでもないし、はちでも…(声フェードアウト)」

−暗転−

−男2はける。男1と男性社員1が上手から出てくる。スポットライト

男性社員1(山下)「昨日はお疲れ様でした。ちょっと”あれ?”って思うところもありましたけど、あれが”神が下りてくる”って奴ですかね?まぁーこれで僕もやっと休出から抜けられる!受注決まるまで当分時間できますね。実は今、大学時代の同期とバンドやろうと思ってましてね。まだ、みんなにはナイショにしてるんすけど、実は曲も出来てるんです!」
男1「よく、この忙しいなかそんな暇あったな。」
男性社員1(山下)「暇じゃないっスよ。時間は”作る”ものなんです。なんか、こう最近充実していて、あれですかねぇ〜仕事に力が入ると自然に曲作りにも力が入って、取って置きのリリックにとんだライムが出来てましてねぇ〜」
男1「(不思議そうな顔で)なんだ?ライムって?あれか?コロナビールに入れる柑橘系のアレか?」
男性社員1(山下)「それもライムっすけど。」
男1「あれか?角川春樹が翻訳した奴か?」
男性社員1(山下)「それは、”ライ麦畑でつかまえて”でしょ?」
男1「じゃー、あれだ。ライム病」
男性社員1(山下)「そうそう、あのスピロヘータの一種が感染して起こる病気。って誰が解るかー」

男1「あれ、晶子さんは?」
男性社員1(山下)「(コノコノー、とにやけて、その後、シリアスに)年休取ってますよ。」
男1「(がっくししながら)そうか。」
男性社員1(山下)「でも、これから数日間は定時に帰れそうっすねぇ〜。いやー疲れたなぁー」
男1「さて、そうだな。当面、インターネットでも見てろ。俺が許す。俺も今日は定時に帰るわ。」

−暗転−


第5場


−街角の喧騒のBGM 男1・男2にスポットライト

男1「やっぱり、そうなのかな?」
男2「そうなんでしょうね。なんでかは、判らないけれど。」
男1「そうなんだな。原因は判らないけど。で、君は彼女とかいるのか?」
男2「えー、一応。キャバクラの女なんですけどね。」
男1「それでも、”彼女”って呼べるのは良いことだね。僕なんか、片思いだ。」
男2「え?、結婚しているんじゃないんですか?」
男1「…残念ながら、独身だ。それも若い女の子に片思いをしている。」
男2「えー、純粋っていうか、かっこ悪いっていうかー」
男1「だよな、そうだよな。」
男2「で、ですよね。でも、同じ時間に寝ると入れ替わると言う…」
男1「そうだったな。昨日は寝る時間を変えたからいいと思うが…」
男2「なら、明日は入れ替わってみます?1時に寝るってー事で。」
男1「だな、明日は別に予定は入っていない、ただ、居るだけでいいよ。プレゼンも終ったし。」
男2「じゃ、今日の深夜1時に寝ることにしましょう!?」
男1「俺はどうすればいいんだ?」
男2「コスモシステム社に行って下さい。横浜にありますから。あ、知ってますか。そこで、なにげなーく、一日を過ごして下さい。別に何も言われませんから。」
男1「そんなんで上手く行くのかね?」
男2「なんとかなるっすよー。」

−暗転、BGM消える

−男2、3ピースのジャケットにネクタイ。
−男1、ジャケットを羽織らずによれよれのシャツ

(ジリリリリリ)目覚ましの音

−男1にスポットライト

男1「どこだ?ここ。これが遠藤の家?(けむたがるふりで)汚いなぁ〜。あぁ、これがあのジャケットね。これしかないのか?まぁ、僕は無事遠藤になった訳だ。コスモシステム社に行くか。横浜だな。」

−男1中央に立って

男1「おいおい、8時50分だってのに、誰も来ないのか?」
女性社員(声)「それはいつもの事でしょ?なんで遠藤さん、今日はこんなに早いの?」
男1「あ、あぁ、昨日飲みすぎてね。なんか、すげー飲んだ次の日は凄く目覚めよかったりするじゃん!?」
女性社員(声)「そんなもん、なんですかねぇ〜。」
男1「まぁ、今日の…仕事は…」
女性社員(声)「遠藤さんが、そんな事言うなんて珍しいですね。今は、受注待ちでしょ?別に定時に来なくてもよかったのに。」
男1「あ、あ、え、えぇ、そうですね。なんでこんな時間に来ちゃったんだろう(照れながら)」

−暗転。男1はける、男2にスポットライト

男2「え、えぇ、今日は晶子ちゃんは?」
男性社員(山下)「今日も休みですね。もう2週間も休みです。どこか体の具合が悪いんですかね?」
男2「(この事をなんて須藤さんに伝えようか?)そうか、ちょっと、調べてみるかね。」
男性社員(山下)「調べるなんて、派遣会社に電話すればいいんじゃないんですか?」
男2「そ、そうだね。そうしよう。」
男性社員(山下)「なんか、昨日、”神が降り”てきてから変ですよ。年休とったらどうですか?どうせ、受注までまだ時間あるんだし。ですよ。」
男2「そ、そうだね。でも、晶子ちゃん気になるなぁ〜。派遣会社って何処だったっけ?」
男性社員(山下)「たしか、スタッフスタッフ社だったと思いますよ。多分、今更新の時期ですから、呼び出したらどうですか?」
男2「そうだね。そうするか。」

(トルルルルウゥ)呼び出し

スタッフスタッフ社(声)「はい、スタッフスタッフです!ご用件をどうぞ!」
男2「MRVシステムズのす、須藤です。そちらから派遣している晶子さんって居ると思うんですが。」
スタッフスタッフ社(声)「あ、あぁ、晶子さんですね。申し訳ありません。今、ちょっと病気で…あ、交替要員なら探しますよ!すぐに、すぐにでもッ!」
男2「え、晶子さんの病気は…」
スタッフスタッフ社(声)「あの、今、中央病院に入院しています。病室は201号室です。あ、新しい要員なら、明日からでもッ!」
男2「え、いいです。中央病院の201ですね。」
スタッフスタッフ社(声)「そ、そうですでも、晶子さんはこちらの都合なので、すぐに準備しますから!お願いします!契約を切らないで下さい!」
男2「そんな事ないですから、安心して下さい。」
スタッフスタッフ社(声)「あと、あんまり言っちゃいけないんですけど、晶子さん、夜の仕事もしていたみたいで…」
男2「そ、そうなんですか?」

−暗転。男1にスポットライト。

男1「理恵子がねー。(と、他人に聞こえるように)」
男性社員3(声)「また、その話っすかー?」
男1「今、連絡が着かないんだよ。」
男性社員3(声)「あぁ、僕、昨日、あの店に行ったんですけど。なんか入院したって聞きましたよ。」
男1「どこの病院?」
男性社員3(声)「なんか中央病院の202号室らしいですよ。」
男1「そうか、入院か…」

−BGM町の喧騒
−男1・2出会いながら。

男1「なんか、理恵子さん、入院したらしいよ。中央病院の202号室。」
男2「晶子さんも、入院したらしいです。中央病院の201号室みたいっす。なんか昼間は普通に仕事して、夜にキャバクラで働いていたみたいです。友人から聞いた話ですけど。」

男1・2「えぇ!入院!(お互いを指差しながら)」

男2「こんな話するのもなんなんですけど、あんまり、先が長くないらしいです。」
男1「俺も、聞いた。つらいと思うけど、理恵子さん、あんまり、先が長くないらしい。」

男2「僕達にできる事ってなんですか!?」
男1「わからない。でも、十分に看病する事が大事だと思うんだ。」
男2「それなら、俺、会社辞めます!俺、理恵子が居ないと、居ないと…」
男1「おれだって、そうしたいさ。でも、会社がそうさせてくれない。晶子に会いたいのに。」

−男2、ニンマリと。

男2「それじゃあ、こういうのはどうです?毎日1時に寝てください。僕もそうします。そうすれば上手く行けば、毎日、僕達は入れ替われる。」
男1「そうか!!入れ替われば看病できる。でも、僕とエンドウ君二人だったら、両方仕事があってしょうがない。」
男2「じゃあ、こういうのはどうです?僕は会社を辞める。で、二人で毎日交互に看病するんです。」
男1「俺も、仮にも課長だ。俺の給料で、二人過ごすのも悪くない。なんにせよ、僕は晶子さんに謝らないといけないし、君の理恵子さんにも償わないといけない。」
男2「じゃあ、いいですね。同じ時間に寝れば入れ違う事は大体判りました。僕は会社を辞めます、それで、毎日同じ時間に寝て、お互いに看病しませんか?201号と202号。多分同じ部屋だと思います。」
男1「それだと、ずっと君の”顔”が看病に行って僕の”顔”は仕事だけをするとこになるが。」
男2「そんなの話せばすぐにわかりますよ。外見や、そんなものじゃないと思うんです。僕は。」
男1「そんなものかなぁ〜。」
男2「大丈夫ですよ。話せば判りますから。そんな事より、僕があなたの仕事の邪魔をしないか、と。」
男1「それは大丈夫みたいだ。なにせ、俺が作れなかった資料を君が作ったんだからな。」
男2「僕も、あなたの迷惑にならないように頑張ります!」

−暗転


第6場


−二つの並んだベッドに晶子、理恵子が座る−
−男2、Yシャツ、ジャケットなしで登場

男2「あ、今日は遠藤です。」
男2「理恵子、大丈夫か?」
女2「う、うん。いいんだよ?キャバクラ行って新しい女の子探しても。」
男2「そんなんじゃ、ない。なんとなく悪くて」
女2「なにが悪いの?」
男2「…それが判らないんだよ、でも心配なんだ!」
女2「どうせ、私の金目当てなの?」
男2「(強い口調で)そんなんじゃない!今は不思議と入れ替わる事が出来る。今の俺は外見も中身も遠藤だけれども、これが、不思議と、同じ外見の遠藤でも中身が須藤さんになる事が出来る。不思議だけど入れ替われるんだ。で、俺、遠藤の体と心は会社を辞めた。今は須藤さんと入れ替わって須藤さんの給料で二人でやっていける。大企業の課長だ。結構貰ってるんだぜ。安心しな。」
男2「…で、遠藤の体は空いているので、この体でお前と…晶子さんを看病できる!同じ体で毎日人格が入れ替わる事で、ずっと看病できるんだ。ずっと、ずっと…、って俺、須藤さんの役の時にもそれなりに仕事できるんだぜ、役職なんて関係ないのな、”課長”らしくやってるよ。だから、この偶然を利用しない手は無いんだ!」
女2「遠藤のくせに、何言ってるのよ!キャラじゃないよ。(照れくさそうに)あんたなんてゴデナシよ。」
男2「ゴ、ゴデナシ?」
女2「ロクデナシより一ついいって事よ。」
男2「まだ、その扱いかよ。」

男2「晶子さん、遠藤です。こんな外見ですいません。」
女1「いいんです。気持ちは伝わります。すいません。入院費まで出してもらって。」
男2「パイ食べませんか〜。」
女1「ありがとうございます。ありがたく頂きます。」
男2「それは、内面が須藤さんの時に言ってください。」

−暗転、男2下手にはける。男1Yシャツ、ジャケットなしで登場

男1「晶子さん、須藤です。こんな格好ですが、解りますか?」
女1「あ、話し方で解ります。」
男1「随分と、苦しい生活をしていたんですね。」
女1「隠していてすいません。」
男1「そんなのはどうでもいい。お体は大丈夫ですか?」
女1「大分、良くなりました。」

男1「理恵子さん、須藤です。遠藤じゃなくてすいません。」
女2「いえいえ、須藤さんすいません。なんか、仕事…大変でしょう?」
男1「それが、遠藤君が、良くやってくれてます。僕なんかにわからない、浮かばないアイデアが出てるみたいです。僕なんて、役職に甘えていたんですかね。考えさせられます。」
女2「あんな男…あ、性格の方です。遠藤も世の中の役に立つなんて」
女2「あ、入院費すいません。」
男1「いいんですよ、半分は遠藤君の給料のようなものですから。そんな事より、こうやって毎日二人を看病できる事が嬉しい。」
女2「本当にすいません。」 男1「いいんです、これが生き甲斐って言うか、結構楽しいものなんですよ、これが(うれしそうに)それでは、また。」

−暗転−

第7場


−二つのベッドの上に、女1(晶子)、女2(理恵子)が横たわっている。

女2「ねぇ?起きてる?」
女1「う…うん、起きてる。」
女2「ねぇ、こんな事聞いてなんだけれど…須藤さんの事が好き?」
女1「好きか、嫌いかって言ったら…(ためらって)好きかな?」
女2「私はねー、遠藤が好きなんだッ!きっと、ずっと好き。ロクデナシだけど好き。きっと意味なんて無いんだなぁ〜。」
女1「私…そんなに恋愛したこと無いし、両親の看病だ大変だったから。」
女2「…辛いね、辛かったんだね。」
女1「でも、優しいし、多分、好きなんだろうなぁ〜。」
女2「正直になりなよ!」
女1「でも、理恵子さんも正直になってないんじゃない?」
女2「私はいつだって正直さ!いやなら嫌と言う。でも…好きなんだ。」
女1「理恵子さん…夢ってある?」
女2「うんとね、田舎で暮らすのが夢なんだ。故郷で喫茶店を開くのが夢。キャバクラで働いてお金もあるし、そろそろキャバクラで働く年齢でもなくなったしね!まぁ、そのくらいなら遠藤にもできるでしょ!」
女1「いいなぁー、夢。私、ずっと仕事だけに生きてきたの。両親の治療費にね。なんでもやったの。でも、今、振り返ってね、夢ってないなぁーって。でもね、私、誰かの記憶の中に残っていたいの。もう、私という存在があった事を認めてもらいたいの。」
女2「大丈夫。須藤さんが居る。きっと大丈夫。そして私も…」
女1「そうだよね、きっと遠藤さんなら判ってくれるのかも。私も、須藤さんの記憶に残ってくれればいいな。」
女2「いまどき、須藤さんみたいな誠実な人は居ないよ。遠藤なんて、女遊びがひどいしね。」
女1「そんな事ないよ。須藤さんの時に、理恵子さんの事言っていたよ。僕には理恵子しかいないってね。」
女2「(照れて)アイツは、いっつもそう言うのよ。」
女1「…私達、もう長くないのかなぁ〜。」
女2「何言ってるのよ!私達はピンピンよ!保険金で大儲けしてやるわよ!ハッハッハ!」
女1「生命保険、入っていたんだ。」
女2「その位、私だって私を守るわよ。でもね、相続人を遠藤にしてあるの。」
女1「だって、両親が…兄弟は?」
女2「私はいつだって孤独よ。この仕事始めた時から私は勘当を受けているの。だから、いま、接点があるのは遠藤だけ…」
女1「私も両親を失っているけど…。両親がいるだけイイよ!」
女2「まぁ、そうだけれどね…結婚したかったなぁ〜。子供が見たかった。両親に孫を見せてあげたかった…(嗚咽)」
女1「まだ、できるよ!まだ、大丈夫だよ!」
女2「うん、でも、自分の体は自分が一番知っているの。…なんか弱い私なんて変だよね。キャハハ。笑って過ごそう!晶子ちゃん、友達になってくれてありがとうね。」
女1「そんなの当たり前じゃない。私達はもう親友よ。」
女2「親友…か。私、いっつもそういうのに騙されてきたんだ。今度は大丈夫。今度こそはって…。」
女1「大丈夫、大丈夫だよ。私達きっと…上手くやれる。今度こそ、上手く生きれる!」

−暗転−

−ナースコールのBGM−

看護婦(声)「201号、202号室の部屋からナースコールです!」
医者「すぐに行く!」

−医者、上手から現れる

医者「なんてこった。二人同時とは。至急、ICUに入れるんだ。」
看護婦(声)「血圧、下がってます!心音低下!」

医者「緊急を要する。親族関係に連絡の準備!」
看護婦(声)「わかりました!」

看護婦(声)「それにしても、今日までなんとも無かったのに。…こんな事があるなんて!」
医者「だから、我々の仕事があるんだ!早く連絡!」

医者「(汗を拭きながら)大丈夫、大丈夫ですよ。それにしても、今日は当直は俺一人か。両方を見ることなんて出来ない!…いやいや、『出来ない』なんて我々の職業にはない。『できないんではない!やるんだ!』晶子さん、理恵子さん、頑張ってくださいねぇ〜」

看護婦(声)「201号の晶子さん、連絡つきません。知人でもいいでしょうか?」
医者「わかる番号全部にかけろ!緊急事態だ!」

看護婦(声)「202号の理恵子さん、親元連絡つきません、知人でも…いいんですよね!」
医者「だ!」

医者「頑張ってくれよー、晶子さん、理恵子さん。もうすぐ、あなたの知人が来ますからねぇ〜」
看護婦(声)「血圧上がりません!」

医者「なんとかするんだ!」
看護婦(声)「201号室、須藤さん、202号室、遠藤さん、連絡つきました!」

医者「時間がない!、急ぐんだ!」

−暗転−


第8場

−医者はける。男1・男2現れてスポットライト−
−手術室の前のイスの風景、赤いライト−

男1「なんだって!晶子さんが!」
男2「り、理恵子、まさか、まさか…だよな。」
男1「なんで、なんでこんな事になるんだ!」
男2「いままでは、なんともなかったのに!」
男1「わ、わからない。」
男2「わ、わからない。」
男1「あ、晶子さん、いや、晶子は大丈夫なのか!」
男2「り、理恵子は、大丈夫なのか!」

−(ピー)音と共に、暗転

医者「残念ながら、二人とも…全力を尽くしたのですが…ご愁傷様です。」

男1「何を持って、愛というのかは判らないだた、言えるのは”その人”が居なくなる事がとても悲しい」
男1「(声を強めて)さあぁ、理由なんてそんなもんだ!」
男2「だから、今だから言える!」
男1・2「お前だけだ!愛してる!」

−暗転−

男1「長くなかったな。」
男2「えぇ。あっけなかったです。」
男1「本当だ。ほんとうにあっけなかたな。」
男2「お互い、悲しかったんですかね?」
男1「確かに、悲しい。でも、もうどうしようもならないんだ。」
男2「僕らの心の中にはいつも、ずーっと、宙の向こうまで彼女達はいるんですね。」
男1「あぁ。」
男1「(しばし考えて)君、うちの会社に入らないか?」
男2「無職の僕としては、とても嬉しいんですけど…ゴメンナサイ、お断りします。」
男1「やっぱりだめか。」
男2「理恵子の田舎に行って喫茶店でも開こうかと思います。それに、また入れ替わっても困りますしね。」
男1「そうだな。じゃあ、俺が偶数の時間に寝るから、君は奇数の時間に寝てくれ。」
男2「こうなった今、もう、そういう能力もないのかもしれませんね。」
男1「まぁ、お互い、体に気をつけて」
男2「ですね、須藤さんも働きすぎに注意してくださいね。俺、須藤さんの時大変だったんですから。」
男1「じゃ…。」
男2「じゃ!」

−二人握手をして上手、下手にはける−

−暗転−
BGM「RAIN」ザ・ユウヒーズ

音小さくなり、全員出てくる、礼。

−完−