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Aさんの思い出

僕の仕事はシステムエンジニアである。

そして現在僕が働いている部署はパッケージ製品をお客様に導入する部署で特定の営業とか顧客を持たないのが特徴。
案件が取れるとそのお客様を担当するラインの営業、SEと一緒に仕事をする事となる。

ある時期、複数の案件で何回か連続で同じ部署と仕事をしていた。

その部署の部長はやり手だが、当時はまだ部長になったばかりであった。
僕が思うに、その人が最初にやったのが幽閉されている(とあえて表現する)客先に行きっぱなしの主任を呼び戻し、課長にする事だった。
その人をAさんとする。

僕とAさんとの出会いはここから始まった。
Aさんは高卒だがすごくビジネスセンスがあり、すぐにパッケージを理解した。
そして、実際に手を動かす事も多かった。僕もそうだが、高卒はとにかく頭だけではなくて手も動かす。管理職になってからも手を動かす人は出世する。

さて、そこからが凄い。
Aさんはうちの部署に部長として異動。長年赤字続きだった部署を数年で黒字転換させて本部長に昇進。

そんなAさんの働き方が好きだった。

地方(飛行機移動など)に行くとき、僕たちは前日移動、所謂『前乗り』(前日に移動して夜に現地で酒を飲んで地方のホテルに泊まるパラダイスパターン)を楽しんでいたが、Aさんは「朝イチの飛行機に乗れば間に合う」と言って実際にそうしていた。

だからと言って、前乗りする人を咎めるような事は無かった。

提案書とかを書く場面になると徹夜になることが多いのだが、Aさん(当時は部長)も最後まで必ず残ってくれた。(場合によってはタクシー券を出してくれるつもりだったらしい)
ただ、ボケーっと待機している訳では勿論なく、部長としての業務を深夜に行っていた。時には”パシり”のような事もしていた。僕がこの歳になっても”パシり”のような事を平気でやるのはおそらくAさんの影響だ。

僕の穿った考えかもしれないが、Aさんは同じ高卒である僕を気にかけてくれてたように思う。とにかく技術的な質問はほぼ僕が受け持ったし、それに対する回答はきちんと”会社としての回答”として責任を取ってくれた(お陰様でその件でクレームを受けるような事は無かった)

時期を前後して、僕はメンタルでやられてしまって一時期休職していたのだが、復帰後、Aさんは僕を信じてくれたのか、「5週連続でパッケージの機能説明、実機デモ、顧客への実機教育」と言うことをやった。
正直厳しかった。僕は当時は”販売物流”の専門であったが、この5週教育は、それだけではなく、在庫購買、MRP・生産、財務会計、管理会計まで全てを教えたのだ。データもお客様にリアリティを持ってもらうために事前に実際のデータをヒアリングして前日にマスタの投入を行う…。現地の営業に飲みに誘われてもそれを断りホテルでシコシコと作業。僕はお酒が大好きだが、やっぱりAさんの依頼だし僕なりにプレ活動としてのプライドがあったので飲まずにやった。
本当に自転車操業だった。

5週連続教育を無事実施した最終日。
Aさんは「よくやったな。なんか望みかなえてやるか?」と言ってくれたので思わず「Aさんとサシで飲みたいです!」と本音が出た。
僕はAさんみたいになりたかったし、頭の中をサシで飲む事によって知りたかったのだ。

Aさんはキョトンと驚いていた。「え?そんな事でいいの?」と快諾してくれた。
しかし、よく考えたらかなりの昇進チャンス(ではなくてもボーナスなどの最高査定)だったんだろうなって思う。

その後、僕のメンタルは浮き沈みが激しかった。本当に辛い時代だった。Aさんに辛い思いもさせたと思う。

数年後、同じ本部の同期が課長になって、身内で昇進祝いの飲み会をした時に「なんで、俺が課長になれたのかわからない…でも、”ひとつだけ…”と言うかそれしかないと思うんだがAさんが上げてくれたんだと思う」と。

別に僕でなくてもよかった。同期の絆は強い。
なので、Aさんが僕の同期を評価してくれた事は正直手放しで嬉しかった。

僕は、そこからAさんは事業部長になると思っていた…。

さて、ここからは半沢直樹の世界ではないが1番最初にAさんを課長にした件の部長(当時事業部長)がある莫大な赤字額のプロジェクトの責任をとってグループ会社へと異動になった。別にその人が悪い訳ではない。ただ、赤字の額が大きすぎて、課長や部長の責任(グループ会社への出向)では示しが付かなかったのだろう。
言い方を恐れずに言うと「これだけの赤字出してるんだから、お前ら(部長、課長)のクビじゃダメ。この金額なら事業部長を飛ばさないと周りからもバカにされる」って感じだ。

Hanzawa 02

ちなみに僕の会社では若いうちのグループ会社の(猶予付き)出向や異動(期限付きで社長職)はうちの会社の”幹部への昇進パス”としてはある意味”条件”であったが、年齢的にもう戻ってくることは無いだろう。

そして、”社内政治の世界”と言うか彼が居なくなった事によりAさんを差し置いて他の畑の人が事業部長になってしまった。
結果、Aさんは事業部長と本部長の間の職に就き、パッケージビジネスから離れ、そして本社から離脱しグループ会社の社長となった。

とはいえ高卒の社長だ。
よほどのことがない限りなれない。

今日、オフィスで働いていたらAさんが突然現れた。もう別の会社になってしまったので、僕の勤務するフロアに来ることは基本的にはない。
流石に社長だけあって、秘書を連れての登場。

僕は凄く驚いて、ギョッとAさんを見た。
Aさんと目があって、「お前、まだ(この会社に)いるのか!?」と言う顔をされた。
本当は沢山沢山話したいことがあるのだが、もう立場が違いすぎる。

Aさんは今年で還暦を迎えたらしい。ただ、社長。まだまだ大丈夫だ。
身長は低く、声は甲高い。でも、それが嫌味ではなくて不思議な愛嬌をもたらす人。

「知らんがな!」と「意味わかんねー」が口癖の人。

僕の勤務する会社は本当のピンチになった時に、グループ会社から呼び戻して立て直しを図る事が過去にあった。
僕は、最初に書いた部長が呼び戻され社長に、そしてその右腕にAさんが戻される未来を思ってる。

僕が安易に転職できない理由はそこにあるのかもしれない…。

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