矢向に住んでかなり経つ。
その間、色々な飲み屋が開店したり閉店したりしたが、ある飲み屋に気が合う友達がいた。仮にAとする。
過去形で書いたのは、今はどこで何をしているかはわからないから。この街には住んでいないだろう。飲み屋の関係ってそんなものなのだ。
一時期、僕はAとつるんで行動していた。僕の家が喫煙可能なのと独身だから自由が効くと言うので週末などは(当時)「レンタルビデオを借りたのだけど返却日が今日までだから一緒にみないか?」と言っては僕の家に来てタバコを吸ってお酒を飲みながら返却期限間近のDVDを見ていた。
セレクションはAなので基本的に僕としては興味のある作品とかでは無かったが、見ていて苦になる事はなかった。海外の映画がメインだったのだが、やはり海外で名作になるには訳があるのだな。
Aは車を運転できたのでたまにレンタカーを借りてはストレス発散にドライブに連れて行ってもらっていた。
料理も好きだったAは「いつか本物のキューバサンドを作りたい」と言っていたのを思い出す。
実際、キューバサンドがどのようなものかはわからなかったが名前から想像するに現地のソウルフードなのだろう。
Aがこの街から消えてから随分と経つ。僕に対しある程度の債権をもったまま消えたので僕のお財布はダメージを受けていたけど、経験だと思うしかない。
その後、ある日、Amazon primeで『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』という作品見た。おそらくAはこの映画からキューバサンドの知識を得たのであろう。

一流レストランで働く頑固なシェフが、有名な料理ブロガーが来ると言う情報を仕入れた際に冒険的なメニューでおもてなししようとするがオーナーからは「今まで通りの(安心安定の)メニューで行け」と指示を受ける。
悔しいがオーナーは雇用主なのでリクエスト通りにコース料理を出すと(案の定?)ブロガーからボロボロの評価が下される。
映画の時代設定はYouTubeやTwitterが出だした頃。『情報を食べる』時代の最初期なのかもしれない。周りから「Twitterでブロガーがお前の料理に対してボロクソに書いているぞ」というのを知って主人公は激怒。
その後、息子にSNSの使い方を教えてもらい、そのSNS上で心のまま暴言を書いてしまう。SNS初心者あるあるだ。
ちなみに家庭の事情があり、主人公は息子と会う時間が制限されている。息子は主人公(父親)を嫌いではないが父親は“息子が喜ぶ事“への固定概念が強いので、遊園地に連れて行ったりする事が一番大事な事だと思っていてそれに少々不満があるみたいだ。
ただ、SNSの使い方を通じて対話しながら物事を知っていくというエピソードは、息子が本当に父親に望んでいた事……直近の話題について直接“父親と対話する“事だったのだ。
その後、ふとしたきっかけでマイアミに行った主人公はキューバサンドと出会い、勤めていたレストランを辞め、キッチンカーでキューバサンドの移動販売を始める。
……何もかも上手くいかない時期があったりする。そこで燻っても人生だし、この映画のように今の立場を捨ててもう一度世界を見てみるのも良い。自分ではどうしようもない最悪な悩みでも、原因は案外シンプルなものだったりして、それに気がつくと人生がどんどんと好転していく事もある。勿論、そんなに上手くいくケースは多くないと思う。2:8位で失敗するケースの方が多いと思う。
でも、人生は進む。
何か一つでも自分自身が自分の収入源の仕事とは別に好きなものを見つけて知人・友人と語り合う事は時に行き詰まっている生活の突破口になるのかもしれない。

