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ネット(正義|暴力)

1.初めてのバズ

ネットのブロガーにヤマダタクトと言う人物がいる。自分の事を「ヤマタク」と呼び、アフィリエイトなどで荒稼ぎしている情報商材屋だ。2ちゃんねるでは彼のアンチスレが多数立っている。

彼の口癖はこうだ「僕はオススメしただけです。全ては自己責任。僕に当たるのは筋違いです」と。
勧めておいて自己責任はわからないでもないが、梯子の外し方にも程がある。何人もの被害者がツイッター上で彼に謝罪を求めたが、そう言うユーザーを”アンチ”と称してTwitterでは次々とブロックしていった。
「やれやれ、アンチは少しは自分の頭で考えないと」煽るようにヤマダタクトがツイッターでつぶやく。ブロックした後に最後っ屁(皮肉)をかますから反論したくても反論できない。
そうやって神経を逆なでするのが彼のやり方だ。

そんな中、ヤマダタクトのやり方を論破するものが現れた。ハンドルネームを”トネガワ”と言う。自身のブログに彼の悪行を書き丁寧にそれらの不整合などを指摘していく、ブログアクセスの少ないトネガワは、そのブログのアドレスを2チャンネルのヤマダタクトアンチスレで発表した。
トネガワの動機、想いは「一人でもヤマダタクトに騙される人が減って欲しい」と言う純粋なものであった。

実際、トネガワのブログは読みやすく、整理されており、何より論理的にヤマダタクトの悪行を見事に暴いていた。

2ちゃんねるでは
「ご苦労様です」
「これは良いまとめ」
「拡散すべき!」
と言う書き込みであふれた。
それと同時にトネガワは自分のTwitterでブログを公開した。

すると、その直後からトネガワのブログアクセス数が激増し、結果的にアドセンス広告料がうなぎ登りに上がった。
桁違いのアクセス数がずっと続く今までに経験のしたことのない世界。
スマホでリアルタイムアクセス数を見る。リロードすればするほどリアルタイムアクセス数が増えていく……
トネガワにとって、これが初めての”バズ”であった。

「なんだろう、この感じ……」

今まで経験したことがないこの感じ。自分の文章がネットを通してみんなに読まれているこの感覚、高揚感。
トネガワの脳にこの”バズの快感”がしっかりと焼き付いた。

2.正義の名の元に

トネガワはそれからヤマタクの過去ブログから矛盾を見つけどんどんと自身のブログで論破していった。
その都度、トネガワは2ちゃんねるとTwitterでの報告を行った。

ネットでは、
「いつもご苦労様です。この調子でヤマタクの悪行を暴きましょう!」
「さすが!トネガワ」
「ヤマタクってそんな人だったのですね。知りませんでした」
の声が上がる。

ツイッターでも徐々にトネガワのフォロワーが増えていく。
「トネガワさん、頑張ってくださいね。ヤマタクの悪行を追及しましょう!応援しています!」
ツイッターがうなぎ登りに増えていく感覚、それもトネガワにとって初めての感覚である。

トネガワはあくまでも悪いことはしていない。誤りを指摘しているだけである。そこはトネガワも注意している。”感情論での批判はダメ”と。

そう言う事を数回繰り返す事に、あるメソッドがあることに気がつく。

実際の所、トネガワのブログの他の記事には全然アクセスがない。これはヤマタクのエントリーを公開してからも変わらない。
しかし、このヤマタクを叩いた時だけそのエントリーのアクセスとTwitterのフォロワーが爆発的に増えると言うこのメソッドに。

「そうか、ネット上で誤解を招くような事を書いている人を叩けばバズるのか!」

ヤマタクから派生して、Twitterなどでヤマタクと絡んでいる人の不備を次々に指摘していく。

トネガワのブログは日常の些細な出来事や、新製品の紹介エントリーが大多数を占めていたが、このメソッドに気付いてからはヤマタクを叩くエントリーの割合がどんどん増えていった。カテゴリーは”ヤマタク界隈”である。

その内に新着エントリーはヤマタク界隈のカテゴリーが大部分を占めるようになっていった。

トネガワは気がついていない。自分がメソッドの旨味に染まっている事に。

ただ、トネガワはヤマタク界隈のエントリーを書き続ける。
正義の名の元に…

3.アンチ?

2チャンネルのヤマダタクトスレでは
「トネガワ、ちょっと調子に乗りすぎてないか?ヤマタクだけ叩いてればいいのに」
との書き込みが書き込まれ始めた。

2チャンネルの住人は人気者を叩く傾向があるので、そう言うものなんだろう。トネガワ自身、2チャンネルを過去から見ていたのでそう言う意見は無視する事にした。

「ノイズ……だよね」
「嫉妬だよね」
「僕は間違った事してないよね」

そして、いつものようにヤマダタクトとその界隈の発言の指摘と論破を繰り返すトネガワ。
いつに間にか批判にも似た行き過ぎた論破は、ヤマダタクトの界隈だけではなく、所謂”情報商材”を扱う人だけではなく色々な人に伝播して行く。

そして、2ちゃんねるやTwitterのそう言う自分に否定的な意見が出ているのを見てはトネガワはTwitterで呟く。
「困ったものです。僕は間違った事を言ってないのにどこにでもアンチは湧くものですね」
あくまでも自分は被害者と言うアプローチである。
ー どこか……感覚がマヒしてるのに気がついていなかった ー

Twitterのフォロワーは少し減ってはガクンと上がると言うことの繰り返しが続き、全体的に右肩上がりとなり、結果的に3000人を超えた。

トネガワはフォロワー数を”信用”と考えている。実際、ネットが発達してから信用社会が数値化されるようになってきているのは事実である。それはフォロワー数を調べるのが手っ取り早い。

もうトネガワは周りから突っ込む…所謂”ガヤ”ではなく、影響力のある人へと変化していっている。だが、トネガワ自身はそれにはまだ気がついていない。
あくまでも、フォロワー数=信頼されてると言う感覚。それは間違ってはいないが、諸刃の剣でもある。

そんな中、トネガワのツイッターに反論する者が現れた
「貴方のやっている事は弱者を叩いて喜んでいるだけに見えてしまいます」
ハンドルネームは”スルメ男”と言う。

4.不毛な議論

※この章はTwitterでのやり取りとして書かせていただく

(「貴方のやっている事は弱者を叩いて喜んでいるだけに見えてしまいます」というスルメ男の呟きに対して)

トネガワ「あなたが何を言いたいのかわかりませんが、私は間違った事は言ってません」

スルメ男「確かにそうですが、そこまで叩かなくても良いのではないでしょうか?誤りを指摘するのは正しいと思いますが、少し行き過ぎているのではないのか…と」

トネガワ「私に反論があるのならブログに書くか直接ツイッターで僕に反論をください。私のフォロワーが正しい目で見てくれると思いますよ」

スルメ男「わかりました。もしそのような時があればそうします」

トネガワ「ちなみにプロフィールから、あなたの過去ブログ、読みましたけれど全く共感できませんでした。全てが薄っぺらいです」

トネガワ「その程度で私に意見しないで欲しいです」

トネガワ「アンチはわかって無いですね、何も考えないで叩く。思考停止に思えてしまいます」

スルメ男の呟きに対して、一方的にトネガワがまくし立てる形になってしまっている。
ー しかし、この両者の呟きにリツイートやいいねがつく事は無かった。

5.行きすぎた正義

トネガワの”正義”は誤った方向に向かってはいないだろうか?
やりすぎでは無いか?
一部の人達の中ではそのような考えが頭の中をよぎるようになっていっている。ただ、それらはまだ”明文化”されていない。ネットの文字として現れていない。モヤモヤとした感情の一つだ。

そんな想いが人々の中に蓄積されていった頃、2ちゃんねるのヤマタクスレに誰かが書いた。
「トネガワよ。行き過ぎた正義はもはや暴力だよ」

しかし、その書き込みも速度の早いスレでは他のノイズによって流されていく。トネガワはそれに気がつかなかった。

一方トネガワはTwitterのアンケート機能を有効に、そして定期的に活用していた。
ブログを更新してTwitterで連絡した後に
“私と彼のどちらの意見が正しいと思いますか?”
とアンケートを取るのだ。


今回のエントリ、どちらが正しいと思いますか?
・トネガワ
・ヤマタク
・どちらが正しいかとはわからない

大抵は、トネガワに賛成の票が多数集まり7:1:2位の割合になっていた。
それが彼の正義のエビデンスになっていった。
「あぁ、今回も僕が正しいと思う人が大多数だ。僕は間違ってない」
そして、それがトネガワを安心させる拠り所となった。

6.炎上

トネガワはある時、いつものように反論・指摘ブログを書いていたが、ちょっと油断したのか、ハナからそう言う思考だったのか、かなりの極論を書いてしまった。前提を書かずに、だ。
困った事に、その発言には少なからず政治的な発言が含まれていた。
最初、トネガワはそれに気がついていなかった。いつもの感じで2ちゃんねるとTwitterで公開しただけ。

いつものようにスマホでリアルタイム読者数を見ると、いつもよりも桁外れに数が多い事に気がつく。

結果、トネガワのブログが悪い方向で炎上してしまう。”バズ”ではない、”炎上”だ。

トネガワは初めて大多数に”叩かれる”側へと転じてしまった。それも今までの界隈の人達だけではなく、政治的な部分からポリティカルに敏感な人達も巻き込んでしまっている。

ポリティカルな発言やブログのエントリーの普及力は大きい。予想以上に大きい。それが過激な発言であればあるほど普及力は指数関数的に増えていく。フォロワーが少なければそこまで影響は無かっただろうが、トネガワはもはや”影響力のある発信者”である。

焦ったトネガワは火消しに奔放する。自分の3000人いるフォロワーが自分を擁護する発言をリツイートしまくっていった。

そして、そう言う意図で書いたのでは無いというエントリーを挙げたが、それが火に油を注ぐ形になってしまう。結果的に誤解をさらに歪曲させる形になってしまった。

トネガワは初めての”炎上”に焦っていた。経験したことがない。着火は得意だが、火消しの経験は無い。

テレビのニュースを見ていればそういう事件で溢れている。現実社会と一緒でネットも初動が大事なのだ。
そう、初動を間違えれば、後手後手で失敗するのは世の常なのである。

そんな彼のブログに対して、それを指摘するブログがついに出てしまう。それはスルメ男のブログだった。

トネガワは自分の位置を確保しようと、いつものようにアンケートをとった。
驚くべき事に、1:9の割合でスルメ男が正しいと言う結果になってしまった。

「さすがにやり過ぎ」
「ウザくなってきた」
「政治に繋げるのは無いわー」
「今回の件で一気に冷めた。さよなら」

彼のフォロワーは一気に激減してしまった。
政治的な発言の部分も一人歩きして、政治団体などからも批判を浴びるようになってしまう。

確かに、政治家でも芸能界でも一緒で、目立つ人は叩かれる。ネットの世界ではそれが一般人にまで及ぶのだ。ネットは一般人対一般人だ。それも匿名性が強い。ミュートしきれない部分だってある。

トネガワはブログを閉じる事にした。Twitterのアカウントも消した。トネガワの精神のキャパシティーを超える批判に、耐えきれなくなってしまったのだ。トネガワはこのままでは精神を壊すと判断した上での結果だ。

7.たった一つの冴えたやり方

今回の一連の流れについて、筑波大学 人間心理学領域 社会心理学 准教授である小日向富雄さんの意見を乗せてこの小説を終わりとする

ー ネットの世界では声が大きい人には必ずアンチ(反論者)がつきます。それがたとえ理不尽な理由だとしてもです。私たちは一般人(私人)です。”正義”を履き違えてはいけません。

ー 大事なのは、己の誤りを認める心と他者を尊重する心。どんな身分であっても、どんな状況であっても、間違ったら謝ることが大切です。

それができる事が生きていく上でのたったひとつの冴えたやり方なのです。

(2019年6月新宿 談話室滝沢にて)

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