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Oと言う男

僕が会社に入った年、僕は今までの陰キャを捨てて社会人デビューをした。新人教育時代に積極的に同期を誘い毎日のように飲んだ。勿論、みんなお金はなかったので外で飲む事は稀であったが寮の部屋では毎日遊んでいた。

僕はカーストの上の方にいた。元から陽キャラだった人達と対等にコミュニケーションを取る事が出来た。高校時代の友人とバイトの経験には今でも感謝しかない。

さてそのカーストの頂点に属する場所にOと言う男がいた。関西出身。多少ビックマウスな面はあったが頭は良かった。

僕たち高卒は新人教育を受けたのち7月に職場が決まりすぐに現場に出される。その時点で北海道、名古屋、大阪、福岡に配属が分かれる。僕もその時点ですぐにでも北海道の拠点に戻りたかったがなかなか難しい場所であったし(1名しか北海道枠は無かった)、「まだ都会で頑張って働いて遊んでからでも北海道に戻るのは良いか…」と言う気持ちもあった。

新人カーストのほとんどは関西に配属された。まだ西に元気があった(仕事があった)時代だ。今考えれば、カーストの上位には関西人が多かったように思う。道産子の僕がよくそこで対等に渡り合えたか?今になっては思い出せないが、小学校からプログラミングをやっている僕として、コンピューターエンジニアの新人教育の3ヶ月は暇でしょうがなく、他人の手伝いをしていた。タバコばっかり吸っていたし余裕があったのかもしれない。

入社2年目に出張で大阪に行く事があった。本当は木曜に移動して金曜日の夜に帰ってくると言う日程だったが、ちょうど大阪の事業所で同期と会って同期の寮に泊めてもらうと言う事で東京に戻るのを1日遅くしてもらった。
今考えれば週末に重なる出張は大抵理由をつけて土日に被せる事は多いと思う。せっかく出張したので観光も兼ねようと言うものだ。あと金曜日の夜は現地の人と思いっきり飲めるのも良い。
新人時代に関西に配属されたメンバーが集まって僕を受け入れてくれた。大阪の寮で思いっきり飲んで、語り合った。
「波秋、タバコ好きだろ?俺、車買おうと思ってて、思いっきり改造しようと思うねん。改造したらマフラーから火が出るから、その火で波秋のタバコに火をつけてやるわ」、Oが言っていた事を思いだす。

Sigaradumani

Oは一時期関東に配属されていて、間接的ではあるが共に仕事をする事があった。Oは頭が良くて世渡りもうまかったように思う。
ただ、金遣いが少々粗かった。何回かまとまったお金を貸した事がある。
ギャンブルをやるような男ではなかったので、おそらく夜の街のおねーちゃんにお金を落としていたのだろう。

その後Oはまた大阪へと戻っていった。噂に聞くとお金持ちの寿司屋の女性と結婚したらしい。ただ、それ以外にあまりいい噂を聞かなくなっていたのも事実である。

時は流れて僕は福岡にいた。福岡で仕事をしていた時期だ。何気ない会話から「金を貸している後輩から全然帰ってこなくなったから、嫁さんの電話番号を調べて電話したら翌日に返してくれたよ」と言うエピソードを聞いた。そして話の流れから、その”後輩”がOである事を知った。ショックであったが、僕もまとまったお金を貸していたので奥さんに電話をする事にした。
すると翌日には振り込まれていた。その後バツが悪そうに”O”から電話があって「すまん」と言われて。それが最後の会話だった。

正直、他人の家庭事情はわからなかったけれど、奥さんがお金を持っている事だけはわかった。なのに、なぜ人からお金を借りていたのだろう?わからない。

それからさらに時が流れた。ある週の課会での出来事。課長が「まず連絡事項があります。皆さん旅費は正しく申請してください。不正出張はダメです。絶対に」と言った。その後、なぜそんな話題になったかを知る事になった。

“大阪のある社員Aが部下の社員Bと毎日京都に出張に行っていた”

この旅費申請を社員Aは上長のパスワードを知っていたので自分でなりすましシステムにログインして旅費申請を承認していた。
月曜〜金曜で京都に行く場合は現地に泊まるのが一般的で日帰りが何週にも続いている事を総務が不思議に思い調べたらわかったとの事だ。

その”社員A”こそ、Oだった。それによって不正に得た金額は100万円ちょっととの事。Oは100万円と言うお金のために人生を棒に振る事になる。
少なくともOは頭が良かったから頑張れば100万円はボーナスなどの査定で貰えたであろう。

なぜ、そんなすぐにバレるような事をしてしまったのだろう?
Oは懲戒解雇になるかとみんなが思っていたが、グループ会社への出向と言う辞令でこの件は幕を閉じる事になる。
今から15年以上も前の事なのでそう言う恩赦があったのかもしれない。でも、まだ肩書きもない状態でグループ会社へ出向と言う事は一生平社員で終わる事を意味している。

その後、Oがどうなったのかは知らない。みんなあれから会社を離れたり、家庭を作り今では1993年の入社組が何人残っているのか僕は知らない。

100万円と言うのは大金だ。でも、仮にもうちの会社に入れたのなら頑張って稼ぐのに決して無理な金額ではない。目先のお金の為に人生を棒に振ってしまったOの事をたまに思い出す。

繰り返し書くが、Oはギャンブルをやるような男ではなかった。何がOを狂わせたのか…それがちっぽけな”見栄”だったとしたら…

僕は人生ってのを”見栄を張って”生きる事はつまらない事だと思う。プライドを捨てでも等身大の生活を…。Oなら、自分の能力でいつか周りをギャフンと言わせる事が出来ただろうに。そう、某ドラマのように”倍返し”出来たのかもしれない。

“見栄”は倍返しできない。見栄は虚像だからだ。実態が無い。だから虚しい。
僕はまだ虎視淡々と倍返しを狙っている。そう、1993年高卒組としてまだ会社に残るよ。Oのようにはならない、きっと。

 

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