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アローン・アゲイン

キミは突然現れた。

僕にとって準備をする間もなかったほどだ。朝、月曜日。いつもの様に重い足取りで会社に赴くと、キミが新人の挨拶をしていた。月曜日の朝は朝礼がある。僕は目が悪いので、時間ギリギリについた僕にはキミの姿があまりよく映らなかった。

キミは突然現れた。

カラフルメリィは、僕に対して「オハヨ」と言ってくれたけれど、キミに対してはそう言う準備は一切なかった。上司が言う「キミの面倒を見るんだよ」、と。僕は近づいてキミを見る。なんてこった、僕の理想の女性が目の前にいるなんて。
キミは僕とそんなに年齢が違わなかった。高卒の僕と、大学卒のキミ。生まれた歳は近くても、キミは大学という4年間のモラトリアムがあった。なので、年齢はそんなに違わない。もちろん、僕の方が年上、だ。でも、僕は一瞬でトリコに、なった。つまりそう言う事だ。それは恋だ。

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街は五月蝿い。

東京と言う街は実に雑多だ。あらゆる田舎者から構成されているこの街は、「僕が中心だ」と言う東京に染まろうとしている若者の意識から構成されている。そして、その若者たちが年を重ね、自分の田舎の文化を強調しあった挙句、テイをなしている。
だから、東京には何も無い。
が、どこかしら田舎の雰囲気を感じるのはそう言う感覚が残っているからだろう。朝方の新宿。大きなネズミが路地を歩き、吐瀉物をカラスが突ついている。でも、そんな裏側の東京を知る人は実に少なく、多くの(田舎から出てきた)若者は東京に幻想を抱く。
この街に来れたから、幻想を抱く。自分を大きく見せようとする。その虚栄心が、そして雑念が自分たちを活気立たせる。
僕は、この街に来て、すでに7年経っている。僕は思っていた。「この街は五月蝿い」と。そして、「空がない」とも思っていた。

あなたがやってきた、ようこそこの街へ。

でも、キミはこの街へやって来た。東京と言うステータスに憧れたのかもしれない。眠らない街、東京。この街へ来れば、日本の全てがわかる。そんな街、東京。
銀座・六本木・新宿。
キミはどうもそう言うタイプではなかった様だ。駅を降りて、人の流れに逆らえずにそのまま歩いていたら、いつの間にかエスカレーターに乗っていて、そのまま流れに沿っていて出口を出たら、新宿南口だった。そんな感じだ。
キミは少し動揺していた。でも、それに乗るのがこのマチのしきたりでもある。
キミもレールに乗ってしまった様だ。
汚れた街、東京。Welcome,キミ。
ようこそ、この街へ。
少なくとも、よく眠れるといいね。Happy Sleep。

僕は汽車の中

僕もこの街には随分と慣れた。朝の満員電車もそうだ。僕の田舎では電車の事を汽車と言っていた。厳密には違いがある様だけれども、僕はそう言うのには疎い。
限界と思われる満員電車。駅に止まるたびにまた新しい人が乗ってくる。乗車率はすでに100%以上のはずだ。僕は、腰に痛みを感じながら、背中から押されて窓ガラスに手をついている。
あと、一人、あと一人乗って来れば、僕の身体中が悲鳴をあげ、骨が折れて今にも救急車に運ばれそうになる。そんな思いを抱きながら結局は、僕の身体は壊れることがなく、会社へと運んでくれる。それにしても、よくできた仕組み、だ。

キミが僕の横にいる

キミが僕の横にいる。正確に言うと、それは正しいし、ある意味意識して作られている。それば僕が帰る電車の途中だ。寒くも無いし、暗くもない。ただのホームだ。
キミは少し満員電車を我慢すれば、そんなに苦痛を感じることがなく帰れるハズだ。僕はそれからさらに1時間の満員電車が待っている。僕らのキミとボク。キミはいつも、次の電車を提案してくれた。夜は10分に1本の電車だ。キミはボクのタメに、10分待つことになる。
でも、キミは提案して来れた。「確実に座れる一本後にしましょう」と。
何度、キミの提案に救われた事であろう。実際、僕たちは並んで座って帰れた。ある夏の暑い日、電車の中に虫が入り込んだ。僕とキミの間に入り込んだ。僕らのキミとボクとが嫌がった虫だ。
次の駅で虫は途中下車したのだが、目の前に立っていたおじさんの「カップルさんたち、虫が居なくなって良かったね。」と言う言葉が今でも目を閉じると浮かぶ。
でも、おじさんには嘘をついて居た。僕たちはカップルでは無い。
キミには彼氏がいる。

バイバイ、キミとボクとの終わり。

キミに彼氏がいる事は何年も前からわかって居た。正直に言うと、キミが僕の下についた時から知って居た。でも、僕が明日が楽しみだった。
もし、もし、キミがカラフルメリィの様に、僕の前で「いいよ」って言ってくれれば…そんな事を思って居たからだ。何となれば。
告白は2度した。キミに彼氏がいる事を知って居て、それでも2度した。1度では自分に整理がつかなかった。だから、間を置いて、2度した。何かが変わっていれば、と思えばと思った。
これは癌に似ているのかもしれない。癌と言う病気は現代では治らないと言われている。でも、寛解したり、状況・場所を変え、立場・状態を変える事により改善する事がある。僕はそれを信じて居た。素晴らしいぜ、ボクはガンなの、だ。
でも、それは叶わなかった。

アローン、アゲイン、バイバイ

その後、僕は会社の人から、キミとの関係について問われた。「お前はどう考えているのか?」「セクハラはやめろよ。」僕は、そんな世の中のガタガタなガラクタには嫌気がさして居た。
僕はボロボロにめかし込んで、それぞれ別の道を歩む選択をした。選択権は僕に委ねられたからだ。会社の組織はそこがズルい。そんじゃま、そう言う事で。
君は、ハラリと一回り回って、そう。昔、一緒にコーヒーを買って居た時の様に僕にバイバイを行った。
まぁいいか、そんな事。オサリバンなら、なんてキザなセリフを言っていただろうな。
回る影、踊るキミ、アローン・アゲイン、バイバイ。

インスパイアド by 有頂天(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)

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