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キングと呼ばれた男。

僕が会社に入って、初めての部署異動をした先に、「キング」と呼ばれる男性がいた。僕が入った年にはキングと呼ばれていたので、なぜこのような名前になったのかは知らない。ただ、キングと言っても部長とか課長などの管理者ではなく、その頃は年の頃なら20代中盤くらいであったのではなかろうか?

みんながキングと呼んでいた、本当の苗字で呼ぶのは課長くらいであった。

僕が初めて客先で仕事をする時、場所は福島だったが、キングのプロジェクトだった。厳密にはもうちょっと偉い先輩もいたが、「キング」のシマだった訳だ。

Qk trump 3

キングは決してイケメンでは無い。また、キングに対して、ジャックやクイーンがいたわけでも無い。キングはキングで、キングしかいなかったのだ。

仕事中、唇が乾燥するのか、リップクリームを放さず、いつも唇をテカテカに光らせていた。

東京ではなく、福島で仕事をすると言う事で、僕たちは福島にアパートを会社に借りてもらい生活した。中には単身赴任の人もいたであろう。僕は19-20位の年齢だった。

仕事は忙しかったけれど、何事も新しい経験でとにかく楽しかった。朝の9時から0時まで働き、0時から2時まで地元のスナックで飲むと言う生活をしていた。
未成年の僕でさえマイボトルが入れられたのは”時代”としか言いようがない。
行きつけのスナックには僕のお気に入りの子がいた。同じミスチル好き、同い年、趣味も一緒、「味噌汁の具に何を入れる?」でやっと意見が分かれた程だ。

その店でもキングはキングだった。悔しいが圧倒的に人気があった。その頃から僕は自分でお金を払っていたので財力と言う点ではないだろう。圧倒的なエンターテナーだったのかも知れない。

キングは独身だったし、「あぁ、この子もキングの事を好きなのかもな?」とジェラシーを感じていた。

ある休日。 – 僕の会社では週末は東京の寮に新幹線で帰ってもいいし福島に残ってもよかった。新幹線代と手当ては会社が全部出してくれた。 – 僕は福島の街をぶらぶらしていた。

向こうからキングと女性が並んで歩いてくるのが見えた。僕は目が悪かったので直前になるまでその女性が誰かは分からなかった。
そして、すれ違うときにわかった。僕の部署の美人さんだ。脚が綺麗な美人。
この二人、付き合ってたのか!思わず(キングのブサイクな顔を見ながら)驚いてしまった。
「内緒な!」そう言うとキングはそのまま歩いていった。

キングはスナックだけではなく、実際にもモテたのだ。さすがキングである。
その何年か後、福島のプロジェクトも無事終了し、僕たちは東京へ戻った。ちょうど、世の中ではWindows95が流行り出して、夜のお店では女の子が水着や下着姿で接客する「ランジェリーパブ」と言う店が流行っていた頃だ。

キングはその美人と結婚した。(実際に社内にはその美人を狙っている人が多くいた)

その後、キングと一緒のプロジェクトになることもないまま、20年以上すぎた。
ある時、久々に出会った。「あ!キング!」すると「おう、波秋(実際には当時の僕のあだ名)ー、元気ぃ!?」と何も変わらないあの頃のキングがいた。
本当の苗字を思い出すのに30分位かかった記憶がある。まぁ、そんなことはどうでも良い、彼はキングなのだから。

キングはポッケからリップクリームを取り出して、唇に塗ると、「また会おう」と言って消えていった。

キングはやはり、キングだった。

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